クレアチニン測定試薬と当社酵素の貢献

腎機能や筋疾患の評価指標として広く用いられているクレアチニンは、1886年にJafféにより開発されたアルカリ性ピクリン酸を用いるJaffé法によって、長年測定されてきました。本法は簡便かつ低コストである一方、セフェム系抗生物質などの影響を受けやすく、測定精度の面で課題が指摘されてきました。 こうした背景から、1970年代以降、より特異性の高い酵素法の開発が進められてきました。1970年代初頭には、血中に含まれるクレアチンの影響を排除するために、クレアチニナーゼとJaffé法を組み合わせた方法も用いられていました。さらに1980年頃には、すべての反応を酵素で行う測定試薬が販売されるようになりました。この方法では、クレアチニナーゼ、クレアチンキナーゼ、ピルビン酸キナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼを用い、NADHの吸光度変化を指標として測定が行われていました1)。その後、他の酵素系を用いた試薬も開発されましたが、いずれもNAD(P)Hを検出系とするものでした2)(図1)。

図1 クレアチニンを測定する様々な酵素法

一方で、酵素反応の検出方法としては過酸化水素を指標とする方法も知られていました。トリンダー試薬を用いることで、NADHと比較しモル吸光係数が大きい色素を生成できるため、高感度での検出が可能であり、有用な手法とされていました。そのため、1970年代後半には広く利用されるようになり、他の臨床検査項目では採用されていました。ところが、クレアチニン測定系においては、オキシダーゼが見つかっておらずトリンダー試薬の適用に至っておりませんでした。当時は、クレアチニナーゼおよびクレアチナーゼの反応により生成するザルコシンに作用する酵素としてはザルコシンデヒドロゲナーゼのみが知られており、過酸化水素を生成する新たな反応系の確立が求められていました。 こうした課題に対し、キッコーマンの研究者は多様な微生物を対象としたスクリーニングを実施し、1979年にザルコシンオキシダーゼの存在を世界で初めて明らかにしました3)。さらに1981年には、その酵素学的性質を報告するとともに、クレアチニン測定への応用可能性を提案しました(図2)。

図2 ザルコシンオキシダーゼを用いたクレアチニン測定法

ザルコシンオキシダーゼの発見により、ザルコシンから過酸化水素を生成する反応系が利用可能となり、トリンダー試薬を用いた高感度なクレアチニン測定法の開発への道が開かれました。また、当社は酵素を単に開発するだけではなく、クレアチニン測定試薬の組成開発にも取り組みました。例えば、内因性のクレアチンの影響を抑制するために、第1試薬にクレアチナーゼとザルコシンオキシダーゼを含有する系について提案しました4)。この反応系の考え方は現在のクレアチニン測定試薬にも取り入れられております。酵素の探索・改良のみならず、その活用方法や測定系の設計にまで踏み込んだ研究開発への姿勢は、現在も当社に受け継がれています。 その後、当社はクレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、ザルコシンオキシダーゼの製造技術を確立し、当社酵素を用いて株式会社カイノスにより過酸化水素を指標とするクレアチニン酵素法による測定試薬が開発され、1983年上市に至りました。これらの酵素は現在も各社のクレアチニン測定試薬に広く利用されており、当社は酵素を測定試薬原料として世界各国に供給し続けております。ザルコシンオキシダーゼの発見により可能になったクレアチニン酵素測定法は長年にわたり改良が進められ、当社はそれに寄り添い更なる性能向上に向けた酵素の改良にも継続的に取り組んでいます。

クレアチニンについて5) 6)

クレアチニンは、筋収縮に必要なクレアチン及びクレアチンリン酸から非酵素的に生成される最終代謝産物です。血液中に入ったクレアチニンは、腎臓の糸球体で濾過され、ほとんど再吸収されずに尿として体外に排泄されます。このため、血中クレアチニン濃度は腎機能を評価する代表的なマーカーとして広く用いられています。クレアチニン産生量は筋肉量に依存するため、同じ腎機能であっても血清クレアチニン濃度には個人差が存在し、筋肉量の少ない方は低めの血清クレアチニン濃度となります。そのため、日常診療では、血清クレアチニン濃度をベースとして年齢や性別などを考慮した上で推定糸球体濾過量(eGFR)が算出され、腎機能評価に用いられています。したがって、クレアチニンを正確に測定することは、適切な腎機能評価において重要です。

引用文献

  1. 臨床検査機器・試薬, 3 (2), 118-122 (1980)
  2. 臨床検査, 22 (11), 1331-1338 (1978)
  3. 生化学, 51 (8), 788 (1979)
  4. Clinica Chimica Acta, 143, 147-155 (1984)
  5. 日本内科学会雑誌, 109 (12), 2466–2470 (2020)
  6. CKD診療ガイド 2024, 日本腎臓学会編

TOP